2024年 seesaaブログより移転しました

【あとがき】恨みの重箱

お菊は、さる大名家の奥づとめをする腰元だった。

これが珍しいくらいのドジな娘で、
しょっちゅうお膳をひっくりかえすは、
雑巾がけをすれば水桶をひっかけてそこらじゅうを
水浸しにしてしまうは、でいつも怒られていた。

そんなおっちょこちょいのお菊は、
奥方と共に花見や屋形船の遊びに出かけるときのお供から
いつもはずされて留守番をいいつかるのだった。

重箱に詰めたぼた餅をうらやましそうに見ながら、
送り出すお菊。
お供に行くことよりも、重箱の中身に未練があるらしい。

皆がかえってくると、空になったお重や銘々皿を洗って
拭いて片付けるのはお菊の役割である。

高台院さまより拝領の品、ということでかなり高そうな
蒔絵の重箱を、お菊は丁寧に布で拭い、話しかけるのだった。

「いいわねぇ。
1度でいいからこのお重のぼた餅食べてみたい。」

そんなことが願いでいいのか?!

 

そんなとき、事件が起きた。
戻ってきた銘々皿が1枚足りないのだ。
積み上がっているほかの皿を1枚1枚確認するが、
高台院さま拝領のものとは柄が違う。
お菊は泣きそうになりながら探し回るのだが、
とうとう見つからなかった。

それが上役に知れ、お菊は手討ちとなった。
お菊が倒れたとき、
なぜか重箱に手を伸ばしていたという。

その後、銘々皿は花見の宴席に取り残されていたのが見つかり、
お菊の濡れ衣は晴れたのだがもう遅かった。

それ以来、お菊の祟りを恐れてその重箱は使われなくなり、
納戸の奥にしまわれたという。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
イエロー談
「お菊ちゃんが重箱に手を伸ばしたのは、
祟るためじゃないのよね。
ただ、お重のぼた餅が食べたかった気持ちの表れなのよ。
あわれよねぇ・・・」

 

音声版は

PAGE TOP